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ハラール◆菜食主義
柿と
鴨川沿いで100年近く続く日本料理店「本家たん熊本店」(下京区)で、冬の恵みが詰まった料理が美しい器で配膳された。
見た目は、通常の会席料理と変わらない。異なるのは、すべてイスラム教の戒律に配慮した「ハラール食」という点だ。
「この店の味を世界中の人に味わってほしい。その一心で考案しました」。若主人の栗栖純一さん(40)は語る。
インバウンド(訪日外国人客)の増加が、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産にもなった和食の多様化を促している。
アラビア語で「許されたもの」を意味するハラール。食では豚肉やアルコールが禁じられており、鶏肉や牛肉も戒律に基づいた方法で処理する必要がある。
栗栖さんは70か国以上を渡り歩き、料理人として現地の食文化への理解を深めてきた。イスラム圏の人々から旅行中に受けたもてなしに感動し、「いつか恩返しがしたい」と思ってきた。
「ハラール会席」への挑戦を決めたのは、イスラム教徒の観光客が安心して外食する場がないと知ったから。京都に来るイスラム教徒は増えていたが、モスク(礼拝所)でしか食事できない観光客もいた。
ハラール食に対応するには、調理器具を通常の料理と分ける必要がある。
16年には、より多様なニーズに応えようと、ビーガン(完全菜食主義者)会席も開始。修業時代に精進料理を学んだ経験を生かし、かつお節や卵など動物由来の食材を一切使わないメニューを考案した。
コロナ禍後、ハラールやビーガン会席を注文する外国人客の割合は約4割に上る。「日本が誇る食文化の中心地で、伝統料理を食べに来る人々の思いに応えたい」。その情熱が、京料理の可能性を広げている。
京料理の業界では、世界的な菜食主義の需要に応える動きが広がっている。
今月16日からは、「京料理 鳥米」(西京区)や「美濃吉本店 竹茂楼」(左京区)など、京都食文化協会に所属する8料亭が参加する菜食のフェアが始まる。
参加店は精進料理を基に、植物由来の食材のみを使う「プラントベース」のメニューを開発し、環境や健康に配慮した日本食の実現を目指す。
企画に携わる同協会幹事の田中良典さん(41)は、力を込める。
「日本料理の一丁目一番地の京都から、『サイショク』が新たな世界共通語となるよう、その魅力を発信したい」(畝河内星麗)